パリ中心部のポンピドゥー・センター内にある美術館で現在、特別展「ル・コルビュジエ:人間の尺度」(Le Corbusier - Mesures de l'homme)が開催されている。
ル・コルビュジエ展概要
特別展はスイス生まれの建築家ル・コルビュジエ(本名シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ:1887-1965年)の没後50年を記念するもの。「サヴォワ邸」などの作品で知られるル・コルビュジエは近代建築を確立した人物の一人であり、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースの手による独特の外観をしたポンピドゥー・センターにふさわしい展示である。今回の展示は「人間の尺度」というサブタイトルが付けられており、ル・コルビュジエの提唱した「モデュロール」(Modulor)に関連した作品が展示されている。「モデュロール」とは、人間の身体を空間把握の基準とする原則のこと。マルセイユの「輝く都市」をはじめとする彼の後期の主要作品も、この原則に基づいて寸法が定められている。
ル・コルビュジエ展の構成
今回の特別展ではル・コルビュジエの手によるデッサン、絵画、模型、写真など300点が展示される。展示は12のセクションに分かれ、ル・コルビュジエの生涯と思想を順番に追うことのできる構成となっている。「リズムとモチーフ」のコーナーでは、キャリアを開始したシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)を取り巻く建築・美術の時代状況が展示される。
「ピュリスム」のコーナーではル・コルビュジエが盟友アメデ・オザンファンと出会い、共著『キュビスム以降』で主張した形式による抽象絵画が展示されている。ル・コルビュジエがオザンファンの影響を受けつつ、独自の抽象表現による静物画を確立していく様が展示される。
ル・コルビュジエがオザンファンと共同で創刊した芸術雑誌のタイトルから取られた「エスプリ・ヌーヴォー」のコーナーでは、二人が雑誌の中で主張した建築様式の展示を見ることができる。ル・コルビュジエが友人のために設計した「アトリエ・オザンファン」の貴重な図面も展示されている。
「私生活空間」のコーナーでは、ル・コルビュジエが1927年に提唱した「近代建築の5原則」(ピロティ、空中庭園、自由な立面、連続水平窓、自由な平面)に基づく室内空間の様子が展示される。ル・コルビュジエの代表作「サヴォワ邸」の図面もこのコーナで見ることができる。
「身体表象」のコーナーでは、1930年代におけるル・コルビュジエの芸術様式の変化を表す絵画が展示される。「モデュロール」の原型となった身体表現がここでいよいよ明らかとなる。
「家庭の備品」のコーナーでは、有名な「LC2」をはじめとするル・コルビュジエの家具が展示されている。シンプルなデザインながら、人体の計測にもとづく快適さを追求したル・コルビュジエのこだわりが明らかとなる。
続くコーナーは今回の展示のメインである「モデュロール」。展示されたデッサンなどを通じて、1943年以降、ル・コルビュジエの産み出した身長183センチメートルの人体を基準としたスケールが生み出される過程を見て取ることができる。
「ユニテ・ダビタシオン」のコーナーでは、モデュロールが実際に適用された集合住宅「輝く都市」のデッサンが展示される。
「音響の時代」では、再びル・コルビュジエの様式の変化を表す美術品が展示される。意図的に耳を大きく表現した彫刻など、ル・コルビュジエの知られざる側面を表す芸術作品が展示される。
「霊的な共鳴」のコーナーでは、ル・コルビュジエ後期の代表作である「ロンシャンの礼拝堂」などの貴重なデッサンが展示されている。
「人間主義的な都市」のコーナーでは、晩年の都市計画を扱った青写真が展示されている。インドのチャンディガール都市計画のデッサンや貴重な当時の映像などを見ることができる。
最後のコーナーである「別荘」では、ル・コルビュジエが晩年を過ごした避暑地の建築が展示。ここもまたモデュロールの原則に基づき設計されていた。
なお、本展示の会期は2015年8月3日まで。写真入りの展覧会カタログ(F. Migayrou et O. Cinqualbre dir., Le Corbusier, Mesures de l'homme, Paris: Ed. du Centre Pompidou, 2015.)も販売されている。
ちなみにパリにはル・コルビュジエの手による作品が多く所在している。特に南の郊外にある国際学生都市のブラジル館(Maison du Bresil)はモデュロールの原則に従って寸法が定められているので、ポンピドゥー・センターの特別展を見た方はついでに寄って行くのも良いだろう。
「ル・コルビュジエ:人間の尺度」(Le Corbusier - Mesures de l'homme)photo: facebook.com
場所:ポンピドゥー・センター(Place Georges Pompidou 75004 Paris)
会期:2015年4月29日〜8月3日(火曜日は休館)
時間:11~21時
料金:14€、割引11€