Charlotte_Gainsbourg_Cannes_2017
現在、フランスでは一つのインタビューが話題になっている。 

10月26日、英国『ガーディアン』紙によるシャルロット・ゲンズブールへのインタビューが公開された。シャルロット・ゲンズブールはフランスを中心に活躍する女優・歌手で、ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールを両親に持つ。今回のインタビューもそんな父親についてのトピックを中心としたものだ。

シャルロットの父親セルジュ・ゲンズブールはフランスを代表するアーティストの一人だが、猥褻な作曲内容や、TVショーにおいて高額紙幣にライターで火をつけるなどの過激な言動で知られ、生前から大きなバッシングを受けていた。娘のシャルロットとも、彼女が12歳の時に「レモン・インセスト」という父と娘の危険な関係を想起させる歌詞・ミュージックビデオのシングルをリリースし、フランス中で大きな話題となった。(※タイトルの「インセスト」はダブルミーニング)



今回、『ガーディアン』はシャルロット・ゲンズブールに対し、「#MeeToo」が世界的に盛り上がる今日、この曲はリリースされた当時(1984年)のようにチャートのトップ10を10週にも亘って維持できるだろうかと問いかける。シャルロットはこれに対し「この曲は当時からショッキングなものでした」と断りつつも、「ですが、歌詞を聞くだけならゲンズブールは娘に対する父親の限りない愛について話しているだけであり、非難される謂れはありません。なぜなら「インセスト」は物理的なものでないからです」として父親を擁護している。

今日では不適切な言葉遣いがなされた瞬間に「対話終了」となってしまうと言うシャルロット・ゲンズブールに対し、インタビュアーは「それを加速しているのはSNSではないか」と問いを重ねる。ゲンズブールによるきわどい楽曲の発表に対し、Twitterでどんな光景が繰り広げられるかは容易に想像ができると。これに対しシャルロットは「父はあらゆる言動で批判されるでしょう」と答える。確かに違法薬物を吸いながら酒に酩酊した状態でTVショーに出演したり、フランス国歌を侮辱するなど現代では不可能だろう。(※もちろん当時も右翼から殺されそうになっているのだが。)

すべてが過剰にポリコレ化しています」シャルロット・ゲンズブールは述べる。「期待されるものが多く、非常に退屈です。やりすぎてしまったときに起こることを誰もが恐れています。……たった2,3のツイートで人生が終わってしまいます。

この発言に対し、保守系の『フィガロ』もインタビュー内容を紹介するなど、在仏メディアも大きな反応を見せている。また彼女が想定した通り、Twitterでは賛否両論の声が上がっている。

実際、映画『ゲンスブールと女たち』で描かれたように、セルジュ・ゲンズブールはユダヤ人であったため幼少期にドイツ占領下のフランスで「ダビデの星」をつけさせられるなど、複雑な生涯をたどった人物である。フランスといえば民主主義の先進国のように思われがちだが、中にはポリティカル・コレクトネスに対し批判的な知識人も少なくない。今回のシャルロット・ゲンズブールによる発言は、複雑なフランスの政治文化を浮き彫りにさせたと言えるだろう。



photo: wikimedia.org