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大ヒット映画「ドリーム 私たちのアポロ計画」が、9月29日に日本でも公開されることが決定した。

「ドリーム 私たちのアポロ計画」(原題:Hidden Figures)は、米国初の有人宇宙計画「マーキュリー計画」に携わった女性技術者たちを主人公とする実話に基づいた物語。「ヒドゥン・フィギュアズ」とは「隠された人物」という意味。偉大な歴史の影に隠され、今まで一般に知られることの少なかった人物に光を当てた作品となっている。米国では大ヒットとなり、今年のアカデミー賞も有力視されている。

ストーリー

物語の主人公はNASAで計算手(コンピューター:当時この単語は計算を専門とする職人のことを指した)として勤務する三人の黒人女性。舞台は1960年代初頭、ソ連による人工衛星打ち上げ成功の衝撃(スプートニク・ショック)のため、米国はNASAに対し早期の有人宇宙計画の実現を迫る。

主人公の一人、キャサリン・ジョンソン(実在の人物)はその計算能力の高さから、マーキュリー計画の中心となる部局に抜擢され、ケビン・コスナー演じる厳しい責任者の下で検算を担当することとなる。ところが部局で初めてとなる黒人女性ということで、同僚からは露骨な差別を受ける。

一方、もう一人の主人公であるドロシーは業務を円滑に行うため責任者への昇進を望むが、各人女性であることを理由に相手にされない。落胆するドロシーだったが、これからは機械による計算が主流となることを見抜き、導入されたばかりのIBM製計算機(コンピューター)の利用技術をいち早く学ぶ。

3人目の主人公であるメアリーは大学で工学の学位を取得することを希望するが、黒人女性であることを理由に周囲の理解を得ることができずにいた。

有人宇宙計画が進む中、3人の行動は次第に周囲の考え方を変えてゆく。

なお、インターネットの一部では「アポロ計画ではなくマーキュリー計画だ」「邦題のせいで観る気をなくした」などと言う声もある。別にそこまで目くじらを立てる必要もないのではと思うが、確かに物語の舞台が日本ではあまり知られていないのも事実だ。マーキュリー計画とは一体どのような計画だったのだろうか?

「マーキュリー計画」とは?

マーキュリー計画はソ連のユーリ・ガガーリンによる有人宇宙飛行に対抗して米国で立ち上げられた計画。サンダーバードに出てくるアラン・トレーシーの名前のモデルとなったアラン・シェパードや、後にアポロ1号の悲劇に巻き込まれるガス・グリソム、そして今回の映画に登場するジョン・グレンなど7名の飛行士が抜擢され、彼らは「マーキュリー・セブン」として米国の英雄となった。

飛行は7名とも成功に終わり、この計画は後のジェミニ計画やアポロ計画といったNASAによるプロジェクトの前哨戦となった。

なぜ大ヒット?

マーキュリー計画の存在は日本ではあまり知られていないが、米国にとってジョン・グレンら7名は国家の英雄だ。それは冷戦中にソ連に対抗したためだけではない。インディアンたちを追い払ってアメリカ大陸を制圧し、ハワイなど太平洋地域をも手中に収めた米国にとって、宇宙は最後のフロンティア。したがって宇宙飛行士はさながら現代のカウボーイというわけである。今回の映画「ドリーム 私たちのアポロ計画」でジョン・グレンが性格の爽やかなイケメンに描かれているのは、そうしたアメリカ人の国民的心理の反映と考えられるだろう。(※グレンが晩年、上院議員として政治的影響力を振るったことはおそらく関係ない…と思う)

ちなみにマーキュリー計画を描いた映画「ライトスタッフ」といえば宇宙ファンに人気の作品だが、米国ではアカデミー賞も受賞した国民的映画だ。2000年には年寄りたちが宇宙に行くという、その名も「スペース・カウボーイ」という映画も公開されている。この作品が「ライトスタッフ」を意識していることは明らかだ。

今回の映画「ドリーム 私たちのアポロ計画」は、白人男性を主人公とする前2作とは異なり、主人公は無名の黒人女性。これは道徳的配慮というより、視聴者に親近感をもたせやすい演出と考えられるだろう。キャサリンの勤務する計算を専門とする部局の雰囲気もどことなく東海岸やシリコンバレーのオフィスのようだ。

どんな人であっても「自分の物語」として共感・感動を覚える本作、宇宙に興味がない人でもぜひ一度見てほしい一本だ。

photo: wikimedia.org