フランスで現地時間6月15日午前9時より、2016年のバカロレア哲学試験がスタートした。
バカロレア資格とは?
バカロレア資格はフランスの大学入試。日本のセンター試験と同様、大学入学を目指すほぼすべての高校生が受験する。マーク式のセンター試験と違って答案は記述式で、特に哲学試験では4時間にわたって難問を解くことで有名な試験だ。「バカロレア」(baccalauréat)とは、baccalaris(古フランス語で「騎士見習い」という意味)とlaureare(「月桂冠を与える」の意味)の合成語。大学入学にふさわしい資格を与える、という意味の言葉である。なお、今年の受験生は多くが1998年生まれだ。
そんなバカロレアの試験、今年の日程は6月15~22日の一週間だ。フランスは大学入学の季節が秋なので、この時期に入学試験が行われるのだ。初日は例年通り哲学の試験。3つのテーマから1題を選択し、4時間にわたって論述する形式だ。一体どんな問題が出題されたのだろうか。さっそく問題文を見てみよう。
バカロレア試験問題(文系)
道徳的信条は経験に基づくか。(Nos convictions morales sont-elles fondées sur l'expérience ?)
欲望は本来際限がないのか。
(Le désir est-il par nature illimité ?)
以下のハンナ・アレント「真実と政治」の抜粋を説明せよ。(問題文略)
(L'explication de texte : Hannah Arendt, « Vérité et politique », 1964.)
バカロレア試験問題(理系)
労働の減少はよき生を意味するか。(Travailler moins, est-ce vivre mieux ?)
知のために論証は必要か。
(Faut-il démontrer pour savoir ?)
以下のマキャベリ『君主論』の抜粋を説明せよ。(問題文略)
(L'explication de texte : Machiavel, Le Prince, 1532.)
バカロレア試験問題(経済・社会系)
人は常に自分の欲望を知るか。(Savons-nous toujours ce que nous désirons ?)
人はなぜ歴史の学習に興味を持つのか。
(Pourquoi avons-nous intérêt à étudier l'histoire ?)
以下のデカルト『哲学原理』の抜粋を説明せよ。(問題文略)
(L'explication de texte : Descartes, Les Principes de la philosophie, 1644.)
さて、いかがだっただろうか。一読して「こんなの解けない」と思った方や、「フランスの教育は高校生に本質的な思考力を身につけさせる。それに比べて日本の教育は…」と思った方もいるかもしれない。
実は、バカロレア試験にも日本の大学入試と同様、厳密な採点基準や「解法のテクニック」が存在し、フランスの書店にはバカロレア対策の参考書のコーナーも設けられている。いくら自由記述だからといっても、何でも好きな事を書けばよいというわけではないのだ。坂本尚志「バカロレア哲学試験は何を評価しているか?―受験対策参考書からの考察―」(『京都大学高等教育研究』第18号、2012年)には、バカロレアの哲学試験で高得点を取る秘訣、またその理念などがまとめられているので、ぜひ一読をおすすめする。
なお、本誌では2年前より継続してバカロレア哲学試験の過去問を特集してきた。今回の記事を読んで興味を持った方は、以下の関連記事から2014年以降の過去問をチェックしてみてはいかがだろうか。
バカロレア試験(哲学)過去問
2015年
2014年
- これがフランスの大学入試!2014年バカロレア哲学試験問題(文系編)
- これがフランスの大学入試!2014年バカロレア哲学試験問題(理系編)
- これがフランスの大学入試!2014年バカロレア哲学試験問題(経済社会系編)