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今、ある動画がネットで話題を呼んでいる。

動画のアップロード者は大学生の森田由乃。12月12日付『週刊新潮』において、関係トラブルから小里泰弘議員(元農林水産大臣)に対して300万円を請求したとして報道され、一躍インターネットで話題となった人物だ。



動画は「【暴露】真実語ります」と題された1分30秒のラップMVとなっている。「私が世間騒がせてるの由乃 金は金で同じ価値だよYou know」や「慎重に事を運んだが新〇 ふざけたメディアに張り詰める緊張」などと固い韻、ドープなリリックで、かなり完成度の高い内容となっている。

なお、動画は12月28日時点で1万回再生を突破。ツイッターなどのSNSでも話題を呼んでいる。アップロード者が「アテンション・エコノミーの加速」という近年のトレンドを踏まえていることは明白だ。

アテンション・エコノミーとは何か

アテンション・エコノミーとはインターネットを通じた情報過多により人々の注目(アテンション)が希少となり価値を生む状態で、米国の社会学者マイケル・ゴールドハーバーが提唱した概念である。

この傾向はSNSの台頭とともに近年加速する傾向を見ている。象徴的なものとして、SNSのフォロワーが現金で売買される行為はすでに以前から見られた現象である。2014年ごろには「バイラルメディア」と呼ばれるSNSでの拡散を主眼に置いてショッキングな文章や動画をコンテンツとする媒体が一時的な流行を見た。

こうしたアテンション・エコノミーの加速の弊害としてコンテンツの品質低下・倫理観の欠如があげられることも多い。インターネット上の文章や画像は無断転載が容易で、検索エンジンやSNSにおいて品質を担保する技術も発展途上であることから、2016年末には大手医療メディアのずさんな管理体制が問題化、検索エンジンの仕様も大きな変更を余儀なくされた。

2019年に入るとこうした傾向はさらに加速することとなる。違法行為や不祥事などにより世間で注目を集めて「炎上」の状態となった人物が、下品であったりショッキングであったりする動画をアップロードすることによりさらなる注目を獲得、そこで集めた支持を原資として起死回生を図るという行為が複数見られた。

こうした行為は、あたかも信用二階建て投資のようにリスクの高い方法であるが、残念ながら現状、その有効性が確実であることは明白だ。本記事の冒頭で紹介した動画もそのような近年の動向を踏まえて公開されたものと考えられる。

インターネット・メディアの将来

メディアやインターネットは果たして今後、どのような方向に向かっていくのだろうか。SNSの普及によるアテンション・エコノミーの加速は必ずしも好ましいものではないが、今後、コンテンツの品質が是正されることはあまり期待できないと言える。なぜなら、「他人から評価されたい」あるいは「他人のゴシップを見たい」という欲望は人間の本質だからだ。もう多くの人が忘れ去ってしまったかもしれないが、2015年に世界を震撼させたパリ同時多発テロの震源地となった週刊誌『シャルリー・エブド』も、そうしたゴシップを好む市民社会の要請に応じて存続してきたメディアだった。検索エンジンの性能向上や、SNSのガイドライン是正といった「社会的なもの」に依存した制度設計という手段を取るにしても、まずは我々個人の本質的な欲望を直視することから始める必要があるだろう。

photo: forbes.fr