「ブルネッロ・クチネッリ氏、ジーノ・リゴルディ神父(中略)アメリカ大使ルイス・アイゼンバーグ氏、インテリアデザイン専門誌『Interni』の編集長ギルダ・ボイアルディ氏(中略)、これらのすべての人々は、雨が降りしきる中、スターバックス・リザーブ・ロースタリーのオープンのために列をなした。中では、スターバックスの最高経営責任者ハワード・シュルツ会長に対し、パヴァロッティの歌声とともに拍手が送られた。(中略)柵が張り巡らされたコルドゥーシオ広場には、人々が押しかけた。そんな中で、レディーガガが現れるという誤った情報が駆け巡っていた。」(『la Repubblica201897日号)


これは201897日付のイタリアを代表する新聞『ラ・レプブリカ』の時評に掲載された記事であるが、それは96日にオープンしたイタリア初のスターバックスのオープンイベントを伝えるものである。

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「長い(lungo)時間をかけて薄い(lungo)コーヒーを飲むのがアメリカ人」と、コーヒー文化の発祥地としての矜持もあってかアメリカ式のコーヒーを揶揄してきたイタリア人。

そんなイタリア人のバール文化とは、濃くて旨みの詰まったエスプレッソを、バリスタと会話を交わしながら、時には砂糖をがばっと入れてキュッと飲み干すというものである。

そのために、Wi-fiを繋ぎパソコンをいじりつつ、1杯のコーヒーで数時間在籍するという行為は言語道断なのである。

かつて日本でイタリア人の先生からイタリア語のレッスンを受けた筆者も次のようなことを言われた。

「スターバックスはアメリカのマシーンだからダメ。セガフレード(Segafredo:東京を中心に国内に32店舗展開するイタリア式のコーヒーとフードを提供するスイスに本社を置く企業)だったら、イタリアのマシーンを使っているから美味しい。」

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前置きが長くなったが、このようなスターバックス嫌いが蔓延する中、ついにイタリアにおいて第一号店となる店舗がここミラノに誕生したのである。

このミラノの第一号店が誕生するまでには、やや長い歴史があった。


20162月:2017年にミラノに1号店オープンを発表→延期

20172月:2018年後半に「スターバックスリザーブ ロースタリーテイスティングルーム(Starbucks Reserve Roastery and Tasting Room)」オープンを発表。

なお「スターバックスリザーブ ロースタリー」とは、店内に焙煎工場を備えた、シアトルや上海など世界に数えるほどしかない特別店である。

「ついにスターバックスができる」というニュースに何度も踊らされてきたミラノ。

今ミラネーゼにとって一番熱いお店(20189月現在)に実際に行ってきた。


平日のランチタイム、外には少し行列ができていたが回転は速くすんなり中に入ることができた。


見取り図↓

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まず店内で目に入ってくるのが、巨大な焙煎機である。

この緑色の焙煎機で引いたものをその場で味わうことができるのである。

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その様子はさながらコーヒー豆の工場というか…

ティムバートン監督/ジョニー・デップ主演の『チャーリーとチョコレート工場』(2005年・米)を彷彿させる気がしないでもない。

席数は1階と2階と意外にも多く、吹き抜けの天井のせいかとても広く感じる。

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ミラノ店のカウンターは、入り口を背に右手側の「メインバー」と左手側の「プリンチバー」に分かれる。

「メインバー」では、ビバレッジメニューが豊富、「プリンチバー」ではパニーニやピザなどフードメニューが豊富な印象である。


最初に、エスプレッソがメインの「メインバー」と「プリンチバー」の共通のビバレッジメニューはこちら。

メニュー選びに迷ったら、これを選べば間違いないという基本メニューを一覧にした。

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飲み物

  • エスプレッソ(シングル1.8ユーロ/ダブル2.7ユーロ)

  • エスプレッソ・コパンナ(シングル2ユーロ/ダブル2ユーロ)

  • 麦コーヒー(3.5ユーロ)

  • マロッキーノ(3.5ユーロ)

  • カフェ・アメリカーノ(ショート3.5ユーロ/トール4ユーロ/グランデ4.5ユーロ)

  • カプチーノ(ショート4.5ユーロ/トール5ユーロ/グランデ5.5ユーロ)

  • スターバックス・リザーブ・ラテ/ ラテマキアート(ショート4.5ユーロ/トール5ユーロ/グランデ5.5ユーロ)

  • フラット・ホワイト(5ユーロ)

※アーモンドミルク、ココナッツミルク、麦ミルク、豆乳に変更の場合0.5ユーロ追加



一番安いエスプレッソが1.8ユーロと市内のバールの立ち飲み料金と比べたら割高だが、この一杯でWi-fiを使いつつ休憩できると考えたら妥当な値段か…


次に、ここミラノ店の見どころでもある「メインバー」のビバレッジメニューを写真とともに紹介しよう。


ここ「メインバー」でのスペシャルビバレッジは、大きく、

1 ニトロドラフト(ビールサーバーから窒素を含ませながら注ぐ水出しコーヒー)

2 コールドブリュー(水出しコーヒー)

3 ティービバレッジ

4 ロースタリー・クリエーション(スタバの自家焙煎コーヒーを使った創作コーヒー)

に分類される。


①の「ニトロドラフト」とは、「窒素」(Nitro)を含ませながら「樽」(Daft)というその名の通り、まるでビールのような見た目である。

そこでは基本の「ニトロ・コールド・ブリュー」(5.5ユーロ〜)から、ミルクやチョコレートクリームなどを加えた「ニコロ・フラット・ホワイト」や「ニトロ・チョコレートクリーム」(6ユーロ〜)がある。


②の「コールドブリュー」とは、水で長時間かけて抽出するコーヒーのため、タンニンやカフェインが溶け出しにくく、まろやかな口当たりとなっている。

ここでは基本の「コールドブリュー」(4ユーロ)から、チェリーやオレンジ、レモンサワー、ジンジャーなど、フルーツシロップやジュースと合わせた爽やかなメニューが揃っている(5.5ユーロ〜)。

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③の「ティービバレッジ」には、日本でおなじみ「抹茶ラテ」や「チャイラテ」(5ユーロ〜)から、苺や檸檬が入った「シトラスラベンダーセージスプリッツァー」(7.5ユーロ)など変わったメニューも見逃せない。

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4 の「ロースタリー・クリエーション」こそが、ミラノ店でしか味わえないメニューであろう。アルコール入りの「ウイスキー・バレルエイジ・コールドブリュー」 (10ユーロ〜)、その名の通りピエモンテ地方名産のヘーゼルナッツのミルクが入った「イル・ピエモンテ」や「ジャンドゥージャ・マッキアート」(5ユーロ〜)。ビバレッジに加えて、トリノのジェラート職人アルベルト・マルケッティの作ったジェラートを使ったアフォガートにも注目だ。

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上のメニュー表の写真にある通り、基本のフレンチプレスをはじめとして、日本式のハンドドリップである「プア・オーバー」(”Pour-Over”上からの意味)や「サイフォン」など、抽出方法別のメニューもあり、コーヒーにこだわる人を飽きさせない。

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以上、ビバレッジメニューを紹介してきたが、さらに特筆すべきは、フードである。

ミラノに拠点をおくベーカリー「プリンチ」(Princi)がスターバックスと共同して提供しているメニューのため、その内容はコルネッティ、ブリオッシュ、フォッカッチャ、ピッツァ、ラザニア、ティラミスなどと充実している。

たっぷりの具材がのったフォッカッチャも、店舗で生地から作っているばかりか、注文が入れば大きなオーブンで焼きなおし熱々を提供してくれる。

値段もブリオッシュ12.2ユーロ、具材がたっぷりのったフォッカッチャ1切れ5.5ユーロと、市内のベーカリーやバールに比べてとりたてて高いわけではない。

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スターバックスのロゴとなっているセイレーンも、ここではこのようなブロンズとなっている。

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ミラノ店を記念し、アーティストとコラボしたグッズも売り出されている。

特にこのマグカップは、シアトルのスターバックス第1号店からミラノの初店舗まで、その歴史を物語るものとなっている。

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ミラネーゼの憂鬱もなんのその、現時点(20189月)では行列が絶えない大盛況のスターバックスである。

エスプレッソの本場イタリアに店舗を出すことが長年の夢だったというスターバックスの最高経営責任者ハワード・シュルツ氏。

その夢は、イタリアのフードという強力な助っ人を得て、実現したと言える。

ここスターバックス・ミラノには、主に南半球の国々産のコーヒー豆、アメリカ式のマシーンや抽出方法によるコーヒーやティー、そしてイタリア産の新鮮な小麦粉に卵、野菜や果物、牛乳を使った最高のフードが結集している。

特に食料・食糧に関しては、国産のものにプライドを持ってきたイタリア。

勿論、自国に対する誇りは尊重すべきであるが、ここスターバックスで提供されているものの原材料の生産地を考えれば、世界はつながっている。

これこそ、イタリアのコーヒー文化に挑んだスターバックスのメッセージであると言えよう。

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なお、2018年のうちに中目黒にて、この特別店スターバックス・リザーブ・ロースタリーがオープンする予定とのことである。

挽きたてのコーヒーと美味しいイタリアのベーカリーを日本でも楽しめる日を心待ちにしたい。


店舗情報

スターバックス・リザーブ・ロースタリー ミラノ

Piazza Cordusio, 20123, Milano, Italia

営業時間:7:0022: 00(無休)

地下鉄赤線Duomo駅から徒歩5分、Cordusio駅から徒歩30

(author : 増永 菜生)