ドリンク1杯8〜15ユーロ。
これだけ聞くとラグジュアリーなバーのカクテル1杯の値段かと見紛う。
ところが、このドリンク1杯の値段で、前菜からデザートまで、全ての料理が取り放題だとしたらどうだろうか。
これが、ミラノのアペリティーボ(aperitivo)、いわゆるHappy Hourである。
その充実した内容に正式な夕食とも引けを取らないという意味も込めてアペリチェーナ(apericena, cenaは「夕食」の意味)と呼ばれることも。

我こそが太っ腹なミラノのアペリティーボの発祥地と言い張る地区が、市内に3つある。
1つ目は、川沿いにレストランが立ち並ぶナヴィリ地区。
2つ目は、名門の美術大学ブレラ周辺のブレラ地区。
3つ目は、国立ミラノ大学周辺のミッソーリ。
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ガイドブックによって発祥の地がばらばらではあるものの、今回は内田洋子・シルヴェリオ・ピズ『ウーナミラノ』(講談社、2000年)で書かれている3つ目のミラノ大学周辺説を紹介したい。
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ミラノ大学の正門

時期は定かではないが、ミラノ大学の最寄駅ミッソーリの目の前にそびえ立つヴェラスカ塔(Torre Velasca)近くのバールが、アペリティーボを最初に始めたとされる。
余談だが、1950年代中頃に建てられたこのヴェラスカ塔、不名誉にも、英ガーディアン紙が選ぶ「世界で最も醜い建物」第1位に選ばれたことがある。
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話を元に戻そう。
このヴェラスカ塔近くのバールでは、昼食時になると、パニーノ目当てで押しかけるミラノ大学の学生で常に大繁盛であった。
特に試験の時期になると、昼食時のみならず、常に混み合い、パニーノが飛ぶように売れる。
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ランチの定番パニーノ

つまり常に回転が速いこの店では、新鮮な材料で作ったパニーノを食べることができるということで、ますます客を呼ぶこととなった。
大成功を収めた店主は、客が落ち着いた夕刻時、パニーノを一口サイズに切って無料のおつまみとしてカウンターに並べ、ドリンク1杯の料金で好きなだけ食べることができるようにした。
これがさらなる評判を呼んだのであった。

筆者は、発祥地とされているバールを探すべく「世界で最も醜い建物」の周りを歩き回ったところ、「Bar Velasca」(バール ヴェラスカ)という名のバールを一軒、他2軒のコーヒースタンドを見つけたがこれらのうちのどれかが、その昔、ミラノ大学の学生たちにパニーニを提供したバールだという確証は得られなかった。
また、ヴェラスカ塔の1階に「That’s Wine」というレストランが入っており、18時からアペリティーボをやっているという情報だけを得ることができた。
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ヴェラスカ塔1階のレストラン「That’s Wine」

結局、発祥の店を特定することはできなかったものの、現在に至るまで市内のバールは、夕方からドリンク1杯で豪華なおつまみを提供するようになった。

ここで実際のアペリティーボの様子を見てみよう。
写真は、スフォルチェスコ城を突き抜けたところにあるセンピオーネ公園近くの「Duomo dal 1952」(ドゥオーモ・ダル・1952)。
このお店、Duomoと店名にありながらもDuomoからは離れたところにあるのでご注意を。
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「Duomo dal 1952」の店内

丸々一匹焼かれた肉を好きなだけカットして食べることができる他、様々な料理が並ぶ。
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緑豊かな公園を眺めらながら乾杯。
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ミラノ市内のバールやレストラン、アペリティーボの内容は、オリーブやナッツなどの軽めのものから、こちらのお店のように充実した料理を提供しているところまで様々。
もちろん、2杯目のドリンクからは別料金となってしまうが、非常にリーズナブルなアペリティーボ、ミラノ滞在の際に是非利用していただきたい。

今回紹介したお店
Duomo dal 1952
Piazza Sempione 5, 20145 Milano, Italia
営業時間:年中無休(8:00〜23:00)


他にも、ミラノ大学近くアペリティーボで有名なお店
Hora Feliz
Via San Vito, 5, 20123 Milano, Italia
営業時間:年中無休(18:00〜02:00)