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今、フランス全土を揺るがしているデモ活動がある。「ニュイ・ドゥブー」である。

ニュイ・ドゥブー(Nuit Debout/「ニュイ・デブー」とも)は「夜、立ちあがれ」あるいは「立ち上がりの夜」「夜通し起きろ」という意味。Deboutといえば、ウジェーヌ・ポティエによる労働歌「インターナショナル」の冒頭句「Debout, les damnés de la terre. Debout, les forçats de la faim」(起て、地に捕らわれし者。起て、餓えたる者よ)を想起させる。ニュイ・ドゥブーは19世紀におこった革命的サンディカリズムの時代から続く、フランス社会運動史の系譜に根ざした直接行動なのである。

発端は2016年3月31日、政府による労働法改悪への反対デモだった。かねてから社会党政権によって提出されていた新自由主義的な労働法改訂案(エル・コムリ法案)は、週35時間労働制の実質廃止をはじめ、労働者側にとって不利なものだった。これに対し、昨年11月に発生した同時襲撃事件以来の非常事態宣言の延長に不満を募らせていた市民は一斉に反発、抗議行動を起こしたのだった。

3月31日にパリ・レピュブリック広場(共和国広場)で起こったデモは、普段とは様相を異にしていた。デモはいつまでも終わる気配を見せず、参加者が延々と議論を始めたのだ。以後、共和国広場では毎日、夜になると市民たちが集い、思い思いに意見表明(マニフェスタシオン)を行うようになったのだ。

現在、ニュイ・ドゥブーはフランス国内のみならず、ベルギーやオランダ、スペインなどヨーロッパ各国に拡大している。2011年に米国で発生した「オキュパイ・ウォール・ストリート」運動とも比較されるこのニュイ・ドゥブーは参加者の自発性の強さを特徴としており、4月9日に表明された「バルス首相と飲もう」(Apéro chez Valls)というスローガンや、4月20日にアマチュア楽団により行われたドヴォルジャークの交響曲「新世界より」の演奏など、その運動のバラエティの多様さで注目を集めている。



「ニュイ・ドゥブー」の公式webサイトに掲載された宣言には、「意見を聞き入れられなかった人びと、代表されなかった人びとがあらゆる場所から訪れ、私たちの世界の将来について深く考えるようになった。政治とは政治家だけのものではなく、私たち皆のものだ。私たちの指導者は、関心の中心に人間を置くべきだ。一般的利害よりも一人一人の利害の方が重要なのだ」とある。ここには代表民主制への不満と、自らの意思を政治に直接届けたいという希望を見ることができる。「カウンター・デモクラシー」の概念で知られる歴史学者・政治学者のピエール・ロザンヴァロンは、代表性と民主主義の困難についてフランス・キュルチュールのラジオ番組において論じている。ニュイ・ドゥブー運動は労働条件の問題にとどまらず、いかにして市民の意見を政治に反映させることができるのかという民主主義の根幹に関わる問題を私たちに提起しているのである。

なお、5月1日にはメーデーが待ち受けている。ニュイ・ドゥブーでは労働法案の撤回に向けて一大キャンペーンを予定しているという。ニュイ・ドゥブー運動の今後から目が離せない。

photo: nuitdebout.fr