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塾業界における「ブラックバイト」の蔓延が深刻化している。

塾業界における「ブラックバイト」蔓延の社会的背景

かつては塾講師が割のいいアルバイトだった頃もあった。読者の中にはバブル時代、塾講師や家庭教師などのバイトで時給1万円前後を稼いでいたという方や、上の世代からそうした「武勇伝」を聞かされた方も多いだろう。そのため一定世代以上の間では、塾講師のアルバイトといえば高給取りの代名詞、あるいは高学歴の定番というイメージが現在でも残っている。

ところが、そうした塾講師のイメージはもはや過去の話だ。少子化と入試形態の多様化にともなう大学受験生人口の減少と、それに反比例する大学生数の増加。これらの要因は受験業界における需給バランスを変動させ、結果、近年では塾講師や家庭教師の人件費は下がる一方である。かつては時給5千円以上がざらだったのが、今では大手仲介業者の紹介でも時給2千円前後がほとんど。3千円を超えれば応募が殺到するというのが現状である。

塾業界における「ブラックバイト」の実体

こうした教育業界全体の低迷を受けて、学習塾経営者の間では講師の人件費を削ったり、アルバイトに対して過剰な負担を強いる風潮が強まっている。特に学生アルバイトはまだ社会常識が身についていないため、経営者から都合よく搾取されているのが実態である。大学生の世間知らずにつけこんで「君のやる気には感謝している」と甘言を弄したり、「責任感はないのか」「生徒の気持ちを考えろ」などと恫喝し、違法な労働条件を呑ませるという事例も後を絶たない。

そこで今回、厚生労働省は学習塾業界に対し、労働条件の改善を求める異例の通達を行った。労働基準局が3月末、全国学習塾協会や私塾協同組合連合会など7団体に、労働条件改善の要請文を送ったのだ。かねてから労働基準法や最低賃金法の違反事例が問題となっていたが、今回ついに政府が動いた形だ。

とはいえ、今回の通達が行われてからしばらく経ったにもかかわらず、具体的な労働条件改善の兆しが見えているとは言いがたい。通達内容が個々の教室に周知されていないか、経営者から無視されている可能性が高いと考えられれるのだ。

そこで、以下では厚生労働省が指摘した違法就労のケースをリストアップする。自分の関係する現場に当てはまっていないかどうか要チェックだ。(出典は朝日新聞調査

塾業界における不法就労の事例

  • 授業開始20分前に講師を出勤させ会議をしていたのに、賃金を支払わない
→賃金の未払い

  • 報告書やカリキュラム作成を授業の前後にさせていたのに、労働時間として認めない
→労働時間の把握が不十分、賃金の未払い

  • 90分の事務作業で1200円(時給換算で800円)しか支払わず、その県の最低賃金金額を下回った
→最低賃金法違反

  • 夏期講習などで1コマ90分の授業を1日7コマ(計10時間半)させ、必要な手続きをせず1日の法定労働時間(8時間)を超えた
→違法な長時間労働

さらに、労働組合「個別指導塾ユニオン」の発表によれば、業界内でよく見られる以下のような就労規定もすべて違法だという。
  • 代わりの講師が見つからないうちに辞めると、損害賠償を請求する。
  • 曜日のシフトを一旦決めたら、半年間は就活があろうとも変更することはできない。
  • 通常授業以外に行われる夏期講習・冬期講習・春期講習などに積極的に参加しないと、通常のシフトを減らすか解雇する。
いったん塾と労働契約書を交わして署名や捺印をしてしまうと「逆らったら訴えられて損害賠償を請求されてしまうかもしれない…」などと考えて萎縮してしまう学生も多いだろう。しかしながら、就労規定と法律ではもちろん法律の方が優先順位は高い。違法な取り立てを行っていた闇金融業者への返還請求が現在相次いでいるように、塾業界における違法就労を告発する風潮が続けば、今後塾経営者に対し未払い賃金の支払いが義務付けられるようになる可能性も高いのである。

塾業界における不法就労に対処する方法

不法就労に対処する一番簡単な方法は翌日からばっくれてしまうことだが、さすがにそれでは生徒も可哀そうだし、泣き寝入りしているようで癪でもある。

そこで、少し手間はかかるが、前述の「個別指導塾ユニオン」に相談するという手もある。近年さかんに活動を行っている団体なので、最も信頼度の高い相談先の一つであると言える。今後社会人になったとき法的手段に訴える機会は案外珍しくないので、その練習も兼ねて不法就労の申し出をしてみるのも良い経験になるだろう。
【電話番号】03-6804ー7245
【メール】info@kobetsu-union.com
【twitter】@kobetsu_union
【URL】http://kobetsuunion.blog.fc2.com
さて、ここまで労働者目線で「ブラックバイト」について書いたが、経営者の側からは「利益が出ていないのに賃金は払えない」という主張も当然出てくるだろう。たしかに一理ある主張ではある。だが客観的に判断すれば、それは自身の経営能力の無さを露呈させているにすぎない。塾講師のアルバイトに対する悪評が広まって優秀な大学生がエントリーしなくなれば、教育業界の低迷はますます加速し、結果的に自分の首を絞めることにもなるだろう。

業界全体のパイが縮小している今、賢明な経営者なら業態の多角化などの手段で利益をあげようとするのが筋である。どんな事情があろうと、経営難にかこつけて従業員から不法に搾取するのはまともな経営者のすることではない。

photo: clearkin.com